無酸素銅(C1020)の切削加工

高精度な無酸素銅 部品を安定供給するには、材料の物理的・化学的特性を理解し、それに対応した加工技術、工具選定、そしてクーラント管理が不可欠です。
本記事では、無酸素銅の特性と加工におけるポイントについて紹介します。
無酸素銅(C1020)とは
無酸素銅(C1020)は、日本産業規格に規定される純銅の一種で、その名の通り酸素含有量を極めて低く抑えた、Cu純度99.96%以上の高純度銅です。純銅は主に酸素含有量によって分類されますが、無酸素銅はタフピッチ銅(C1100)が意図的に酸素(0.02〜0.05%)を残すのとは対照的に、製造工程で真空溶解などを用いて酸素を徹底的に排除しています。この酸素の欠如が、無酸素銅独自の優れた特性、特に高温環境下での信頼性をもたらします。
無酸素銅(C1020)とタフピッチ銅(C1100)との比較
極めて高い導電率・熱伝導率
無酸素銅の導電率は、タフピッチ銅(C1100)のIACS(国際焼鈍銅線標準)100%をわずかに上回るIACS101%以上に達します。熱伝導率も約391W/(m・K)とC1100(約386W/(m・K))よりも高く、全金属中でもトップクラスの伝熱性を示します。 そのため、性能を極限まで追求するハイエンドな電子部品や、オーディオケーブルの導体として重用されます。
水素脆化の完全な克服
無酸素銅の最大の利点の一つが水素脆化を起こさない点です。 水素脆化とは、銅に含まれる酸素が、600℃以上の高温水素雰囲気下で還元され水蒸気を発生し、材料内部に微細な亀裂を生じさせる現象です。無酸素銅は酸素をほとんど含まないため、この反応が起こりません。これにより、溶接やろう付けといった高温接合、および真空装置や高温環境下での使用が可能となります。これはタフピッチ銅にはない決定的な優位性です。
タフピッチ銅を上回る延性
高純度化に伴い、無酸素銅はタフピッチ銅と比較してもさらに柔らかく、粘り強い特性を持ちます。この極端な粘り強さが、後述する切削加工の難易度を著しく高める要因ともなります。
>>タフピッチ銅(C1100)の切削加工について詳しくはこちら
無酸素銅(C1020)の切削加工のポイント
無酸素銅の切削は、その「極めて高い熱伝導率」と「極端な延性」という二つの特性との戦いと言えます。タフピッチ銅以上にシビアな対策が求められます。
酸化による変色
切削加工においてクーラントの選定は極めて重要ですが、特に無酸素銅では化学的な制約が加わります。まず、銅は、硫黄系の極圧添加剤と非常に反応しやすい性質を持っています。活性切削油を使用すると、切削熱の有無にかかわらず、銅表面が化学反応を起こし、瞬時に黒く酸化・変色してしまいます。製品価値を著しく損なわせないために、無酸素銅の加工には必ず極圧添加剤を含まない不活性切削油を選定しなければなりません。
潤滑性が不足する場合は、油剤の粘度や基油の選定、または高圧クーラントやミスト供給で補う必要があります。
工具溶着
無酸素銅の熱伝導率はC1100よりも高く、切削熱がワーク全体へ瞬時に拡散します。切削点で発生した熱はワークに逃げますが、同時に工具刃先にも急速に伝わります。無酸素銅自体の融点は低く(約1083℃)、かつ粘性が高いため、高温になった刃先に切粉が容易に溶着し、構成刃先として正常な切削を妨げます。そのため、耐溶着性に特化したコーティングやすくい角を非常に大きく設定し、鋭利な刃先を持つ専用工具を選定することが重要です。
切粉処理
無酸素銅の加工で最も厄介な問題は切粉処理です。タフピッチ銅以上に延性が高いため、切粉は全く分断されず、長く連なったひも状になります。この長い切粉は、工具、ホルダ、チャックに巻き付き、工具の破損や製品へのキズ、加工の中断を頻発させます。この問題を解決するためには、オシレーション加工が重要になります。これは、サーボ制御などを用いて工具を送り方向や軸方向に毎秒数十~数百回微小振動させながら切削する技術です。これにより、いかに延性が高い無酸素銅であっても切粉が物理的に強制分断されます。
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無酸素銅は、タフピッチ銅を凌ぐ優れた電気・熱特性と水素脆化耐性を持ち、最先端分野に不可欠な高性能材料です。しかしその反面、切削加工においてはタフピッチ銅をも上回る極端な延性が、「深刻な工具溶着」や「制御不能な切粉トラブル」といった最大の障壁となります。
高精度な部品を安定して製造するには、振動切削による切粉の強制分断、銅を変色させない不活性切削油の厳格な選定、耐溶着性に特化した専用工具設計など、無酸素銅特有の難削性に対応した専門的なアプローチが不可欠です。
当社では、こうした高純度銅の難削性に特化した加工ノウハウと振動切削などの設備・技術を蓄積しております。無酸素銅の精密加工でお困りの際は、ぜひご相談ください。

